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或る人の語り部屋【1】深夜のひととき

* * * * *



町はずれにね。

小さいけれど深緑豊かな公園があるの。

遊具はあまり置いてないから、住民は散歩コースとして使用することが多いみたい。

その公園にね、ある日の深夜、一組のカップルが車で訪れたの。

派手なスポーツカーで乗り付けたカップルは、駐車場の片隅に車を停めて、エンジンを切ったわ。

小さい公園だから、当然、外灯の数も少なくて、駐車場には一本だけが、心許ない明かりを発している。

エンジンを停止させてライトを落とした瞬間から、辺りは闇に包まれたの。

外灯の意味、あまり無いようね。

助手席には、やや不安げな表情をした可愛らしい女の子。

運転席には、その女の子を眺めながら、にやにやしている男の子。

まぁ、普通に考えれば、男の子が良からぬことを考えて、わざわざこんな所にまでやってきたと考えるところなんだけど、どうやら、少し違うみたい。

彼女は、彼氏に身を寄せながら、窓の外をしきりに窺っている。

「……ねぇ、やっぱり帰ろうよ」

消え入りそうな声で彼女が囁くと、彼氏は意地悪く微笑みながら、

「なんだよ、ここまで来て。お前もノリノリだったじゃん」

と、彼女を軽く押し返しちゃったの。

すると彼女は、恨めしそうに彼氏を睨みながら、

「そうだけど……。でもやっぱり怖いよ」

「怖かないって。死んだ人間なんか何にもしやしねぇよ。それともなに? お前、幽霊とか信じてんの?」

「信じてるわけじゃないけど……」

「じゃいいじゃん。アキラたちだって夕べ、ここで肝試ししたけど、別になんも起こんなかったってよ」

「それは聞いたけど、なんであたしたちまで肝試ししなきゃなんないのよ」

「ったりめぇだろ。あいつらばっかりにデカい顔させられるかっつーの。たかが肝試しぐらい、俺らだってやってやらぁ」

「……子供みたい」

「っせーよ。お前だって『面白そう』とか言って、はしゃいでたじゃん」

「それは……! だって、本当に行くとは思わなかったから……」

-----どうやら、この二人は、肝試しをするために来たみたい。

この公園にはね。

落ち武者の霊が出るという噂が、かねてよりあったの。

まぁ、よくある怪談よね。

深夜の駐車場で車のライトを消し、暗闇になったところでクラクションを三回鳴らすと、落ち武者が出るという噂。

なんで落ち武者がクラクションに反応するんだとか、二回じゃダメなのかとか、十回連続で鳴らしたら三回目に出て四回目に慌てて消えるのかとか……。

いろいろツッコミどころはあるけれど、そこを追及するのは野暮ってものかしら。

とにかく、この日彼らは、先に肝試しを行った友人に触発されて、この公園を訪れたらしい。

彼女の「行きたいなら一人で行ってよ!」という訴えを無視したところをみると、彼氏のほうも、本当は怖がっているんじゃないかしら。

強い口調で隠してはいるけども。

「さてと」

彼氏は、わざと明るい声を出しながら、

「では、そろそろやっちゃいますか」

と、彼女を見た。

彼女はもう一度、不安げに彼氏を見上げたけど、彼氏が引く気がないと悟ると、やがて諦めたようにシートに座り直したわ。

「……いいよ」

彼女の言葉に軽く頷いてから、彼氏は一呼吸置くと、ついにハンドルに手をかけたの。

しんと静まり返った公園。

意味を成さない外灯。

横でかすかに震える彼女。

それらのものに視線をやってから、彼氏は大きくハンドルを叩いた。




ファーン


ファーン


ファーン




やや低めのクラクションが、辺りに鳴り響いたわ。

かすかな余韻を残しながら、やがて暗闇に溶け込むように音が消えたの。

二人はじっと身じろぎもせず、神経を張り巡らせていた。




一分。

二分。

三分。



少しづつ時が刻まれていく。

空気が硬直したまま、五分が過ぎたところで、彼氏が安堵したような声で言ったの。

「ほらな。なんにも起こんねぇじゃん」

彼氏の声に、ホッと息を吐きながら、彼女は弱々しく笑んだわ。

「うん。……良かった」

「良くねーよ。俺、幽霊見れんじゃないかと、すっげー楽しみにしてたんだから」

「またそんなこと言ってぇ。本当は怖かったんじゃないのぉ?」

くすくすと笑う彼女。

彼氏は、少し顔を赤らめながら、

「馬鹿言え。怖いわけあるか!」

言ってから、キーに手を伸ばしたわ。

「幽霊がいないとなりゃあ、こんなとこに用はねぇな。腹減ったからファミレスにでも行かね?」

「ええ? 夜中にファミレス? 太っちゃうよぉ」

「いいじゃん別に。お前はサラダでも食って-----。……ん?」

そこで彼氏は、ふと違和感を感じ、言葉を切った。

「……なに?」

途端に彼女の顔が曇る。

「なに?……どうかした?」

「いや……」

彼氏は、ポカンとした表情で、しばらく窓の外を眺めていたけど、やがてみるみる青ざめたの。

彼氏の異変に気付いた彼女は、震える声で言ったわ。

「ちょっと悪ふざけは止めてよ」

すると彼氏は前を向いたまま、「しっ」と唇に人差し指を当てたの。

「聞こえる」

「……聞こえる?」

「なんか聞こえる」

「……え? なに」

「来る」





ガチャン


ガチャン


ガチャン


ガチャン





遠くから聞こえてきた、まるで金属がこすり合うような耳障りな音。

その音は、一定のリズムを刻みながら、ゆっくりとこちらに近づいてくるよう。

彼女は、喉の奥で小さな悲鳴を上げた。

「な、なに? あの音」





ガチャン


ガチャン


ガチャン


ガチャン





「足音……っぽいな」





ガチャン


ガチャン


ガチャン


ガチャン





「足音って……靴の音じゃないよ……」





ガチャン


ガチャン


ガチャン


ガチャン





「ああ。靴音じゃなくて……あれはむしろ」





ガチャン


ガチャン


ガチャン


ガチャン





「よろい」





彼氏の言葉と同時に、今度は本当に彼女が悲鳴を上げた。

その途端、車に強い衝撃が走った。

車体の真横から、何かが思いきりぶつかってきたような衝撃。

その衝撃は金属の足音とともに、車を周回していく。

車体が左右に大きく揺れる。

………たとえ心許ない外灯でも、いくらなんでも窓の外ぐらいは見えるのに。

なにかが確かに、車に体当たりしているはずなのに。

影ぐらいは見えるはずなのに。

………窓の外にあるのは、暗闇だけ。

公園の周囲に植えられた木々の輪郭が、うっすら浮かび上がっているだけ。

ただ足音と衝撃だけが車を襲う。





彼氏は、助手席で悲鳴を上げる彼女の手を掴んだ。

「大丈夫だ! 落ち着け!」

まるで氷のように冷たくなった彼女の手を必死に撫でるが、半狂乱になった彼女は、

「ヤダ! ヤダ!」

と、泣き叫ぶばかり。

その間にも、足音はぐるぐると車の周りを歩き続ける。

ぐるぐる。

ぐるぐる。

「早く車を出して!」

絶叫に近い彼女の訴えに、彼氏は弾かれたように彼女の手を離すと、エンジンをかけて、そこにいるであろうその者に構うことなく、車を急発進させ、公園を飛び出した。






* * * * *





見慣れたネオンがきらめく、いつものコンビニ。

一心不乱に車を飛ばしてきた彼氏は、まるで逃げ込むようにそのコンビニに車を入れたの。

もっとも明るそうな、店の真正面にのスペースに車を停めて、ほっと息をつく。

しばらくの間、二人は無言のまま、なんとなしに店を眺めていたんだけど、やがて彼氏が言ったわ。

「……出たな」

その言葉に彼女が頷く。

「うん。……怖かった」

今度は彼氏が頷き返す。

「ちくしょう、アキラのやつ。俺たちをこんな目に合わせやがって」

「何言ってんの。アキラくんは関係ないでしょ」

ようやく微笑むことが出来た彼女だったが、ふと顔を曇らせた。

「あれ……、お侍さんだったよね」

「そうだな。鎧っぽい足音だったし」

「本当に幽霊っているんだね」

「ああ。正直……ちょっとビビった」

初めて情けなそうな声を出した彼氏に、彼女がくすりと笑った。

「さっきまでの勢いはどこ行ったのよ」

「いや、ちょっとびっくりしただけで、別に大したことは無かったぜ」

「またまたぁ」

「いやホントだって! だってほら、別に実害は無かったし。音、ガッチャンガッチャン鳴らして、車を揺さぶって……。それだけだろ。姿が見えたわけでもねぇし。楽勝じゃん」

「なによ楽勝って。意味分かんない」

呆れたように笑う彼女に、彼氏は軽く肩をすくめると、

「まぁいいや。……さてと、せっかくだから、ここでなんか買って行くか。ホットコーヒーでいい?」

「うん、いいけど……。できればアイスコーヒーがいいな」

「アイスコーヒー? なに言ってんだ。ちょっと体をあっためたほうがいいぞ、お前」

「へ? そ、そう?」

「ああ。手ぇ冷たすぎ。いくら怖いからって、まるで氷みてぇだったぞ。体に悪いだろ。少し体の中からあっためたほうがいいって」

「……なんのこと?」

「なにって……、幽霊が出た時だよ。お前が怖がって叫びまくってたから、俺がずっと手を握っててやったじゃん」






そしたらね。

彼女はきょとんとした顔で言ったんだって。




「手なんか繋いでないよ」







~完~





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テーマ : 怪談/ホラー
ジャンル : 小説・文学

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Author:神無月 大和
         

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