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【1】僕らは八神少年探検隊・改~第1章たからのちず発見



*  *  *  *  *


薄暗く、ガラクタが乱雑に置かれたその小屋。

そこでは、互いに額を寄せ合った二人の少年が、ジッとうつむき立っていた。

「ねぇ、どう思うこれ」

一枚の紙切れを手にした少年が、顔も上げずに問う。

「地図だろ」

隣りで紙を覗き込んでいた少年が、素っ気無く答える。

確かにそれ以外のなにものでもない。

「そうじゃなくてさ、僕が聞きたいのは、これが本物かどうかってことだよ、陽平」

陽平と呼ばれた少年は、肩をすくめながら言った。

「んなこと知るかよ。お前はどう思うんだ? 光一」

光一という名の少年は、改めて紙に目を落とした。

「まぁ……書いてあるからね、『たからのちず』って」



そう、その紙には、大きく『たからのちず』と書いてあった。

文字の下には地図らしきものが書いてあり、下部に赤くバツ印がしてある。

どこからどう見ても、宝の地図だ。

「でも、これ……あまりにも露骨すぎね?」

陽平は、光一から紙を奪って言った。

「たからのちずって。こんな堂々と書くか、フツー」

「知らないよ。書いたことないもん。見たこともないし」

「いま見てんじゃん」

「そうだけど」

「それにさ、これ、どう見ても今の時代の平仮名じゃん。テレビで出てくる宝の地図って、たいがい、ワケ分かんねぇ文字で書いてあるぜ」

「ああ、テレビでよく見るね。埋蔵金って言うの」

「そう、それ。あれって大昔の文字だろ。で、お宝って大昔のもんだろ? これ、俺たちでも読めるぐらい、はっきり書いてあるぜ」

「うーん。新しいお宝ってのもあるんじゃない?」

「あるのか?」

「だから知らないって」

「つーかさ、これ、お前の母ちゃんの、子供のころのイタズラとかそう言うんだろ。いかにもガキっぽい字だし」

「……ああ、その可能性もあるか」

光一はポンと手を打って、小屋から見える母屋を振り返った。

「聞いてみたほうが早いね」




光一と陽平は、南九州に位置する八神小学校に通う六年生だ。

今日は土曜日で、朝から二人で遊ぶ約束をしていた。

午前中に、光一の部屋で一気に宿題を済ませ、光一の母親が用意してくれた昼飯をかき込むと、勢いよく外に飛び出した。

光一の家は昔ながらの日本家屋で、大きいわけではないのだが、その古さが陽平には珍しく、よく家の周りを探検して遊んだ。

そして今日は、以前から気になっていた、古ぼけた小屋の中を見せてもらう約束だった。

それは庭の片隅にあった。

小屋という呼び方をしているが、本来は風呂場なのだそうだ。

昔は、母屋とは別に設置されることが多かったのだという。

この家は、光一の母方の曽祖父母から受け継いだもので、現在は、光一の両親と三人で暮らしている。

四十年ほど前に母屋を改築した際に、風呂も家屋内に移され、それまで使われていた風呂場は、物置として使われるようになったそうだ。

新興住宅に住んでいる陽平には、この古びた情景が、たまらなく神秘的なものに見えるらしい。

とくに、ほとんど廃屋と化している小屋に並々ならぬ好奇心を抱き、「ちらっとでいいから見せてくれ」と、光一に頼んでいたのだ。

「危ないから」という理由で、これまで却下されていたのだが、今日は午後から母親は出かけるという。

父は仕事だし、見せるなら今日しかないと、光一は決心したのだ。

ここには本当にガラクタしかない。

見ても面白いのもはないのだが、とにかく一度見せてやらないと、これからもしつこく頼んでくるだろう。

見せてやれば、気も済むかもしれない。

母親が出かけるまでは、庭でサッカーをしていた二人だったが、母親の車が門から出て行くのを確認すると、さっそく小屋へと向かった。

小屋自体には扉はなく、広い土場の先に竈があった。

ここで火を炊き、湯を沸かすのだという。

竈のそばに扉があって、そこからが浴室になっている。

浴槽は、資料館で見たことのある五右衛門風呂だ。

くもの巣だらけの五右衛門風呂には、踏み板が敷かれたままになっている。

この板が無いと、火であぶられた風呂底が熱くて、中に入れないのだそうだ。

光一は、母から聞いた生活ぶりを思い出しながら、陽平に説明してやった。

浴室内を見学した二人は、今度は土場をがさごそと引っかきまわし始めた。

小屋の半分を、薪や杉の枝が埋めている。

昔はこれで風呂を沸かしたそうだが、現在では、父親が畑の野焼きをする際の火種として使っている。

もちろん、毎年どこからか購入しているものだ。

残り半分の面積は、家で不要になった家具などが保管されている。

保管といえば聞こえはいいが、要するに、処分に行くのが面倒で、ここに詰め込んでいるだけである。

そして、そのガラクタのひとつである大きな棚を漁っていた時、裏側に回った光一が、裏面に貼り付けられた紙を見つけたのだ。

と言っても、テープや糊で貼られていたわけではない。

どこからかやって来た紙が、たまたまタンスの桟に引っ掛かり、そのまま埃で固定されてしまったように見える。

なんとなく気になった光一は、その紙を手に取り広げてみた。

すると書いてあったのだ。『たからのちず』と。



紙の上部に堂々と書かれた『たからのちず』という文字の下には、黒く塗りつぶされた丸い円が三つ書かれており、そのすぐ下に、いびつな形をした白丸がある。

さらにその白丸の隣りには、いくつかの数字が並んでいる。

そして地図の最下部に、大きく赤いバツ印が書いてあるのだ。

母屋を振り返った光一は、まだ母親が帰宅していないことを見ると、再び陽平に言った。

「これさ、うちの家の下にある、洞窟のあたりの地図じゃないかな?」

中心あたりに描かれた、大きく黒い、三つの円。

これが洞窟に見えて仕方が無い。

「洞窟? ……ああ、防空壕のことな」

かつての世界大戦中、この付近も空襲があったらしい。

その時の名残か、町外れにはいくつかの防空壕が残っている。

「まぁ、そう見えないこともないな」

「絶対そうだって」

「だからなんだよ。これを書いたのが子供時代のお前の母ちゃんだったら、別におかしくねぇだろ」

「うん、そうなんだけどさ。……ちょっと行ってみない?」

光一の提案に、陽平はにやりとした。

「ぜってぇ、宝なんか無いだろうけどな」

「うん、無いよね、宝なんか」

「でも、もしかしたらってこともあるからな」

「うん、万が一ってこともあるからね」

「お前の母ちゃんのイタズラだって、決まったわけじゃないし」

「そうそう。もしかしたらね」

「もしかしたらな」

二人はくすくす笑うと、小屋を飛び出し、門に向かって駆け出した。

「お宝見つけたら半分こだかんな!」

「うん!」



門を出ると小さな町道があり、そこを左に下っていくと、防空壕がある山道に着く。

その手前から、わき道に逸れる形で新しい車道が作られているため、こちらは旧道になってしまい、訪れる人はほとんどいない。

山菜取りや、夕涼みにくるお年寄りくらいだ。

近くに古井戸もあったと思うが、それが現在どうなっているのかは分からない。

光一の幼い頃にはまだ綺麗な水が出ていたはずだ。

二人はその山道まで来ると、少し顔を上げた。

「お前んちがあそこか」

下から見上げるように陽平が言う。

高台にある光一の家が、木々に見え隠れしている。

光一は自分の家を仰ぎ見たあと、地図に目を落とした。

「えっと……。ほら、黒い丸が三つあるだろ。これが防空壕で、この下に書いてある変な形をした丸が、洞窟の前にある岩のことなんだよ、きっと」

かつて訪れた記憶を頼りに言う。

最近でこそ、ここまで遊びに来ることは無くなったが、昔はよく遊びに来た。

どんぐりを拾ったり、カブトムシを取ったり……。

が、さすがに洞窟の中に入ったことはない。

「とにかく、そこまで行ってみるか」

陽平が山道に足を踏み出しながら言った。

昔、光一が遊びに来ていたときはまだ新道がなかったため、この道もそれなりに整備され、とくに不備なく通れていたのだが、いまではすっかり雑草に覆われていた。

光一が先頭に立ち、途中で拾った棒で草を掃いながら進んで行く。

「この葉っぱ、切れやすいから気をつけて」

光一は細長く伸びた葉っぱを棒で叩きながら、陽平に言った。

「ああ、知ってる。名前は分かんねぇけど。これって笹船が作れんだよな」

「……笹船は笹で作るんでしょ?」

「これでも作れるんだよ。壊れやすいけど」

「ふーん」

他愛も無い話をしながらさらに奥に進んでいくと、少し道が広がったあたりで、光一は立ち止まった。

「ここから山の中に入るんだよ」

棒で道の横に茂る雑木林を示す。

「うわぁ、さらに奥に行くのかよ」

言葉とは裏腹に、目を輝かせた陽平は、嬉しそうに茂みに足を入れた。

「陽平って思った以上に、こういうの好きだったんだね」

急いで陽平のあとを追いながら、光一が言った。

「さっきまで『宝の地図なんてイタズラだ』とか言ってたくせに」

「っせぇな。ああいう時は、男は簡単にハシャいだりしねぇもんなんだよ。クールに振舞うの。ったく、光一はお子ちゃまだな」

「陽平だって立派な子供じゃん」

なんせ互いにまだ六年生だ。

子供に子供扱いされる覚えは無い、などとブツブツ言いながらも、やはり光一もこの状況を楽しんでいるのだ。

時折、顔を出すヘビに飛び上がったり、服にくっつくオナモミに手を焼きながら、十分ほど進んだあたりで、光一は陽平の服を引っ張った。

「……ここ」

「お、おう」

言われるまでもなく、そこには三つの洞窟が、ぽっかりと口を開いていた。

切り立った崖に、無愛想に掘られた三つの穴。

その前には大きな岩が無造作に置かれている。

洞窟は当然、斜面に位置しているのだが、その対面には、深い谷間が広がっていた。

木々は多いので、手すりの役割は充分に果たしそうではあるのだが、子どもの足だけで降りていくのは、少々勇気のいる傾斜である。

しばらくの間二人は、目の前の洞窟と、背後の谷間を見比べていた。

実際に、この洞窟内で被害が出たのかどうかは知らないが、かつてここに、爆撃機から逃げ込んできた人たちがいたのは確かなのだ。

人の生き死にに関わった場所。

こんなところに、面白半分で入ってもいいのだろうか。

二人揃って同じことを考えたらしく、互いにそっと目配せをしたが、どちらも帰ろうとは言わなかった。

しばらく辺りをきょろきょろしたあと、光一が地図を広げた。

「……やっぱりこの変な形のが、この岩を表してるんだね。場所も合ってる」

岩は、地図で示された場所とほぼ同じ位置にある。

二人が悠々と乗れるぐらいの大きな岩だ。

「らしいな。この横に書いてある数字はなんだ?」

岩印の横に、丸に囲まれた数字が、二段に分かれて書いてある。

上段に『21』『14』、下段に『3』『1』『11』だ。

「暗号みたいだね。なにかを指してるんだとは思うけど」

「こういうのって、解くためのヒントってのが必ずあるはずだよな。それに相当するようなもん、なんかねぇか?」

二人は岩の周りをぐるぐる回ってみたり、なんども地図を眺めてみたりしたが、それらしきものは何もない。

「おかしいね。絶対ヒントがあるはずなんだけど」

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【2】僕らは八神少年探検隊・改~第1章たからのちず発見

光一が、途方に暮れたようにあたりを見回したとき、同じようにキョロキョロしていた陽平が、何かに気付いたように岩を凝視した。

「なに? どうしたの陽平」

陽平の様子に気付いた光一は、同じように岩に顔を近づける。

「なんか見つけた?」

「うん……。なぁこれ、文字に見えね?」

「え? 文字?」

言われて、光一も顔を近づけてみる。

それは岩の下のほう、地面に接するかしないかという、ぎりぎりの位置にあった。

さっきは雑草に隠れて気付かなかったが、確かに文字らしきものが書かれていた。

「コケで半分消えちゃってるけど、黒ペンで書いてるみたいだね」

「だろ?」

「なんて書いてるんだろ」

陽平が腹ばいになってコケを指で削り出した。

ポロポロとコケが剥がれ落ち、下から文字が現れる。

「えっと……。い……ろは?」

陽平が文字を読み上げてから、光一の顔を見た。

「いろは?」

どうやらそれは、『いろは』と書かれているらしい。

陽平と場所を変わり、光一も確認してみる。

ペン先を押し付けながら、力いっぱい書いたような、たどたどしい文字だ。

確かに『いろは』と読める。

「いろは……って、あれだよね。いろはにほへと~とか言うの」

「ああ。そういえば国語で習ったな。それが?」

「それが……って言われても」

困惑した表情で、光一が頭を掻く。

陽平は岩を見下ろしながら言った。

「なぁ光一。お前、本とかよく読んでんじゃん。こういう暗号ものの解き方とか知らねぇの?」

「うーん、そうだなぁ。……例えば、タヌキの絵が書いてあったら『た』を抜いて読む、とか」

「それぐらいは知ってらぁ。つーかそれは、暗号というよりただのなぞなぞじゃねぇか。あのな、そんなに難しい暗号じゃないはずだぜ。なんせ、地図の作者が子供みたいなんだから」

「じゃあ、陽平も考えてよ」

「考えても分かんねぇから聞いてんだ」

「全くもう……。そうだねぇ。数字だったら、ローマ字や五十音に変換するってのも定番だよね」

「変換か」

そう言って、陽平はポンっと手を打った。

「なんかそれっぽいじゃねぇか。よし、それにしよう」

「それにしようって」

光一は軽く苦笑いをする。

「いい加減な探検隊だね」

「いいんだよ。で、どうすんだ?」

「キーとなるのは、やっぱりこの『いろは』だよね。いろは唄を数字に当てはめてみればいいんだ」

「たとえば?」

「たとえば、いろは唄の出だしは『いろはにほへと』だから、『い』が1、『ろ』が2、『は』が3……ってな感じかな」

「おお。ますます暗号っぽい。となると……」

陽平は、近くに落ちていた棒切れを拾うと、地面にガリガリと書き出した。


『いろはにほへと ちりぬるを
 
 わかよたれそ つねならむ

 うゐのおくやま けふこえて

 あさきゆめみし ゑひもせす』



「確かこんなんだったよな」

「うん、合ってる」

国語を授業を思い出しながら、光一は頷いた。

陽平が、その横に数字を書き足していく。

「『わ』が13で……『む』が23で……」

すべてに数字を書き込んだあと、地図の数字を見た。

「21、14、3、1、11、だから・・・…」

そうして、数字に当たる文字を二人一緒に読み上げる。

「『なかはいる』……つまり」

「なか、入る?」

「だろうな。ちゃんと言葉になったじゃねぇか。正解だったみてぇだな」

嬉しそうに頷いた陽平に対し、光一は首を傾げて見せた。

「中、って洞窟の中ってことでしょ?」

「しかないだろ」

「どれに入るの?」

言って、洞窟を振り返る。

「三つもあるよ」

「ああ、そうか。うーん」

と唸ってから、すぐに納得したように顔を輝かせた。

「中って、真ん中って意味じゃないか?」

「ああ!」

光一が、ぱんっと手を叩いた。

「三つあるうちの、真ん中ってことだね」

「そうそう」

「じゃあ、ちゃんと『まんなか』って書いてくれればいいのにね」

恨みがましそうに、光一は地図を睨む。

すると陽平が、地面に書いたいろは唄を指差しながら言った。

「見ろよ。いろは唄には『ん』が含まれてねぇんだ。昔は、発音する言葉と書き文字は違ったらしいから。だから、『なか』にしたんじゃないか」

「ってことはやっぱり、この地図はそんな昔の人が書いたんじゃないってことだよね。昔の人なら、他に表現の仕方があっただろうし」

「そうだろうな。つーか、そもそも昔は、子供はあまり学校には行ってなかったって聞いたことあるから、字が書けたかどうかも怪しいしぜ。岩に書きつけたのって、どうみてもペンだし。……やっぱ、お前の母ちゃんっぽいなぁ」

「素直に『あいうえお』の五十音を使ってくれれば良かったのに」

「習い立てかなんかで、使ってみたかったんだろ、いろは唄を。子供が考えそうなことじゃん」

「お宝見つけたら、お母さんをびっくりさせてやろ」

地図の主が母親だと決め付けた光一は、ひとりでくすくすと笑った。

そんな光一に構わず、陽平は真ん中の洞窟に近付く。

「この中なぁ……」

入り口から、首を伸ばして覗いてみる。

すぐに光一が追いかけてきた。

「なんかありそう?」

「いや、分かんね。やっぱ入んないとダメかなぁ」

「ねぇ陽平。中に入るのはいいけど、この地図で見ると、バツ印は洞窟の中じゃなくて、下の方に書いてあるんだよね。これってどういうことなのかな?」

「……そういえばそうだったな」

確かに、お宝を示すであろうバツ印は、洞窟よりももっと下の位置に記されている。

「……ん?」

その時、何かに気付いたように、陽平が声を上げた。

「おい、光一」

「なに? どうした?」

「お前、中までは入ったことないんだろ?」

「うん。この近くで遊んだことはあるけど」

「よく目を凝らして見てみろよ。洞窟の右っ側のほう」

陽平が暗闇に向かって指で示す。

光一は、じっと暗闇を見つめていたが、やがて、納得したように頷いた。

「下にくだる道がある……」

「うん。真っ直ぐにも進めるみたいだけど、右側にも道があるんだよ。ここからじゃ、はっきりとは見えないけど、たぶん影の濃さから言って、下に向かってる」

そこまで言って、陽平は光一の顔を見た。

「俺、聞いたことあるんだけど、防空壕って、抜け道が作ってる場合もあるんだって。たぶん、これがそうなんじゃないかな。しかも、この方角からいって、その先は……」

二人同時に振り返る。

「あの谷に繋がってる」

「ああ。つまりバツ印ってことだ」

二人で大きくハイタッチをして歓声を上げた。

「解けたじゃん、謎!」

「すごいね! すごいね、僕たち!」

「ああ、すげぇぜ!」

がっちり腕を交差させてから、互いににやりと笑った。

「……どうする?」

「どうするって……」

「行くか?」

「行く?」

「お宝なんてないかもしれねぇが」

「うん。でも」

「ああ、でも」

「もしかしたらってことも」

「あるからな!」

がっしりと腕を組んだ二人は、真ん中の洞窟に向かって歩き出した。

「こうなったら最後までみてやろうぜ!」

「うん!」




【3】僕らは八神少年探検隊・改~第2章いざ洞窟へ

*  *  *  *  *




じゃりじゃりと音を立てながら、二人はゆっくり洞窟内に入って行った。

まだ陽は高いのだが、なんせ山の中だ。

辺りは仄暗く、なんとも心許ない。

「懐中電灯、持ってくれば良かったね」

光一が声をひそめながら言った。

「懐中電灯……。探検の必需品じゃねぇか。うっかりしてたな」

陽平が悔しそうに舌打ちをする。

懐中電灯、コンパス、食料に救急箱。

漫画や小説に出てくる探検隊は、みんな準備万端であるのに、自分たちはなんの用意もせずに来てしまった。

持っているのは、『たからのちず』だけだ。

「探検隊失格だな。次にやる時は、しっかり持って来ようぜ」

「次って……次もあるの?」

「さぁな。また見つけとけよ、宝の地図」

「そんな何枚もあるわけないよ」

話しながら薄暗い中をゆっくりと進み、やがて、先ほどうっすら見えていた二又に着いた。

「やっぱり下に向かって伸びてるな」

陽平が、横穴を覗き込みながら言う。

「この隣りにも洞窟あるでしょ。そこに繋がってるってことはないの?」

「それはないんじゃね? さっきチラっと向こうの洞窟も覗いてみたけど、あっちは、すぐ先が行き止まりになってたから。脇から繋がってそうな穴もなかったし」

「そっか」

「二つの洞窟の間を抜けるような感じで、この道は下っていくんじゃないかな」

「うん。……で、ホントに入るの?」

光一が不安そうに聞く。

「う、うーん」

陽平はもう一度、穴の中を覗いた。

洞窟内とはいえ、ここまではまだ外の光が届いているから、どうにか周りの様子が見える。

しかし穴の中は、当然の事ながら光など一切ない。

谷までそう距離はないだろうし、なんせ子供が作ったと思われる宝の地図だ。

難しい道でもないのだろうけど、やはり闇の中に飛び込んでいくというのは、相当勇気がいる。

陽平は、洞窟内をぐるりと見渡した。

かなり深そうだ。

この横穴もそうだが、それよりも、洞窟自体がまだ奥へと続いている。

入り口付近には木の枝や、むかし使ったと思われる壊れた箒などが散乱していたが、奥に進むにつれ整然としていた。

「懐中電灯、取りに行く?」

光一が出口を見ながら言う。

「いや、時間がもったいねぇ。このまま行こうぜ」

決心したように、きっぱりと陽平が言った。

「……マジで?」

「おぅ」

「……大丈夫かな?」

「大丈夫だろ」

なんの根拠もないが、自分に言い聞かせるように頷いた陽平は、

「よしっ」

と気合いを入れると、穴の中へ入って行った。

「ホントに大丈夫かなぁ」

不安ながらも、光一があとに続く。

その穴は、光一らがようやく通れるほどの広さしかなかった。

ほんの数メートル進んだだけで、すぐに闇に包まれた。

歩くのに障害になりそうな石などは取り除かれているが、下り道である上に、でこぼことした足元は非常に歩きにくく、二人は壁に手を付きながら、慎重に歩みを進めた。

「大丈夫か、光一」

「うん。いまんとこ平気」

暗闇とはいえ、互いの存在は分かる。

光一が、陽平の背中にぴたりと張り付くように進む。

「空気が冷たいね」

「だな。どうでもいいけどお前、俺の背中押すんじゃねぇぞ。下手したら転げ落ちるからな」

「あ、ごめん」

謝ってから、少しだけ距離を取る。

ざらざらとした壁の感触が、手に不快さをもたらしてる。

五分ほど進んだ頃だろうか。

「わっ」

突然、陽平が足を止めた。

後ろを歩いていた光一は、あやうく陽平に追突しそうになり、慌てて体を引いた。

「なに? どうしたの?」

「……行き止まりだ」

「へ?」

「ここで終わり」

「うそ」

光一が手探りしをするように前方に手を伸ばすと、確かに彼らの行く手は、土の壁で遮られていた。

「なーんだ。全然、抜け道じゃなかったんだ」

拍子抜けしたように光一が言う。

「……絶対、下に繋がってると思ったんだけど」

陽平がガラにもなく、覇気の無い口調で言った。

光一は、慰めるように陽平の体を叩く。

「やっぱり、宝物なんて無いんだよ」

「……そうなのかな」

「でも、けっこう楽しめたし、今日はもういいんじゃない? そろそろ帰ろう」

「……うん」

そう言って、未練たっぷりの陽平の腕を掴む。

「帰ろう」

もう一度言って、踵を返そうとしたとき、それに気付いた。
「あれ?」
小さく呟いて腰を屈める。

「……ねぇ。ここ、なんか変だよ」

「なんだ?」

陽平が振り返ると、光一は自分たちの腰のあたりの壁を撫でているようだった。

光一の手に誘導され、同じ場所を撫でてみる。

そこは明らかに、土の壁ではなかった。

板のような感触があり、ところどころに冷たく小さい何かがある。

「クギかな」

陽平も身を屈めて、全体を確認してみる。

どうやら、一メートル四方に板が張り付けられているらしい。

板の隙間から、ひんやりとした空気が流れてくる。

「なんでここだけ板張りなんだろ?」

陽平が乱暴に板を叩きながら言った。




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【4】僕らは八神少年探検隊・改~第2章いざ洞窟へ

「分かんないけど、そんなにガンガン叩いちゃ」

そこまで言った時、板の裂ける音が洞窟内に響いた。

「……あ」

陽平が間の抜けた声を出す。

「あーあ。だから言ったのに」

光一が呆れたように言って、裂けた箇所をそっと指で撫でた。

陽平が叩き続けたせいで、そこだけが粉々になって崩れていく。

「もともとボロくなってたんだよ」

言い訳がましく弁解する陽平の頭を軽く叩いてから、光一は、板の向こうを覗いてみた。

暗闇の向こうから、ほんのわずかだが明かりが見える。

陽平も同じように覗いてきた。

「こっちに道が続いてんのか」

「うん。光があるってことは、外に繋がってんだね」

「じゃあ、行ってみっか」

言いながら、足で残った板を蹴り剥がしていく。
「ねぇ、ちょっと待って」
光一が、またしても不安そうな声を上げる。

「なんで板で塞がれてんの? 中は危ないってことじゃないの?」

「ホント、光一は怖がりだな。単に使わなくなったから塞いだだけだろ。大丈夫だって」

「大丈夫っていう保証は無いじゃん。あとそれから、僕は怖がりじゃなくて慎重派なの。陽平みたいな考えなしとは違うもん」

「ふん。勇敢な行動と言ってくれ」

「どこが」

渋る光一を尻目に、陽平は新しく出現した穴の中へ滑り込んで行った。

「うわ。さらに狭くなってんじゃん」

なぜか楽しげに呟く陽平の声を聞きながら、光一はため息をついて、無残に破壊された板の間をくぐった。

……大丈夫だよね。明かりは見えてるし。

なんとなく自分に言い聞かせながら、再び陽平のあとを追った。



*  *  *  *  *



光に向かって行くせいか、先ほどよりは、ほんのりと内部の様子が見えるようになってきた。
ゆるやかではあるが、頭が天井に着きそうなほどの高さしかない下り坂を、地面に手を付きながら降りていく。

なんせ辺りは薄暗い上に、コロコロとたくさんの小石が散らばっているので、危なくて仕方ないのだ。

時折、足を取られそうになりながらも、互いに支えあって先を急ぐ。

横幅が両手を広げればいっぱいになってしまうほどの広さしかないのが、せめてもの救いだろうか。

人間、無駄に広い場所は、かえって落ち着かなくなるものだ。

谷との距離を目測しただけではあるが、そう長い道のりではないように思う。

二人は無言で進み続けた。やがて道が平坦になり、高さにも余裕が出てきたあたりで、ようやく二人は立ち上がった。
軽く手を払って、再び足を進めようとしたその時、ふいに光一は、肩を叩かれたような気がして動きを止めた。
怪訝な顔で振り返ったが、誰かがいるようには見えない。
試しに薄闇の中で手を動かしてみるが、ザラザラとした岩肌以外に、手に触れるものはない。

……気のせいかな。

そう思い直した光一は、それ以上は追及せずに、前を歩いている陽平に声を掛けた。

「もうすぐ出口かな?」

「だと思うぜ。けっこう進んだような気ィするし」

陽平が楽しげに答えた。

「下りが意外に長かったな。そんな気がするだけなのかもしれないけど。でも確実に、谷に向かって下りたはずだぜ」

「そうだね。僕もそう思う」

「それにしても狭いな。さっきの半分くらいしかないんじゃね?」
陽平がぐるりとあたりを見渡しながら言った。
「ここ、防空壕だろ。こんなに狭かったら、いざって時に逃げにくいような気がするんだけど」

「大きく掘ってる時間がなかったんじゃないかな。いつ敵がやってくるか分かんないんだもん。とにかく抜け道を完成させることを第一に……うわっ!」

突然、光一が叫んだ。

「なんだ? どうした?」

陽平が慌てて足を止める。

振り返ってみると、光一が直立不動で自分の手を凝視していた。

「どうした」

「……なんかヌルヌルしたのに触った」

光一が泣きそうな声で言う。

「気持ち悪いよぉ」

「ヌルヌル? そんなのあったか?」

「壁のほう」

試しに光一の手を触ってみると、確かに右手に、粘着質なゲル状のものがベッタリとついていた。

「うわ、なんだコレ」

思わず手を引っ込める。

暗いので、その正体ははっきりとは分からないが、お世辞にも、触り心地の良いものとは言えない。

「コケか?」

「コケってこんなヌルヌルしてるの?」

「さぁ、知らね」

「気持ち悪いよ、陽平―――」

「ハンカチは? ねぇの? じゃあとりあえず自分の服で拭いとけよ」

「ええ? やだよ、そんなの……」

「んなこと言ったって、俺だって持ってきてねぇし」

「なんで持って来ないんだよぉ」

「そういう自分こそ」

と反論してから、陽平は光一を慰めるように体を叩いた。

「とにかく早く出よう。もう壁には手をつくな。俺が先導するから、俺の肩に手を置いとけ」

「うん」

光一は言われた通りに、綺麗な左手の方を陽平の左肩に置いた。

でこぼこした道を、絶妙にバランスを取りながら進んでいく。

光一は、汚れたままの右手が自分に触れないように、少し体を反らしながら歩いた。

「お。出口か?」

陽平が弾んだ声を出す。

光一が肩越しに覗くと、前方から差し込む明かりが、よりいっそう濃くなっているのが確認できた。

「やっと出られるね。早くこの手をなんとかしたいよ」

忌々しそうに自分の手を見ながら、光一が言う。

そんな光一には構わず、陽平は頬を緩ませた。

「お宝、お宝」

出口を前に、自然と足が速くなる。

進むにつれて光が大きくなり、出口の全貌が確認できた途端、二人は我先にと、転がるように穴から飛び出した。

「うっわ、眩しっ!」

「目がくらむぅ」

闇の中から光りの中へ飛び込んだ二人は、とっさに目を覆いながらも、互いに肩を叩きあった。

「出た!」

「脱出成功!」

しばらく瞬きを繰り返していると、徐々に目が慣れてきた。

さわさわと吹く穏やかな風とともに、あたり一面に広がった草たちが揺らいでいる。

その周りを、ぐるりと木々が囲むように円を描いており、振り返った頭上には、さきほど二人が覗き込んだと思われる場所が見えた。

「やっぱり、ここに繋がってたんだな」

陽平が感慨深そうに呟く。

光一も同じように見上げていたが、ふと我に返って言った。

「あ、手」

おそるおそる自分の右手を見てみる。

陽平も一緒に覗いて、そして首を傾げた。

「なんだ、これ」

「なんだろ」

光一の右手に付いていたのは、赤茶げたゼリーのようなものだった。

いや、形状はゼリーに似ているが、手をひっくり返しても落ちないほど粘着率が高く、しかもなにやら、サビ臭い匂いもしている。

正体不明の物質に、光一が慌てて手を振る。

「うわ、取れない! どうしよ、陽平!」

またしても泣きそうな声を上げはじめた光一を落ち着かせるように、陽平が言った。

「慌てんな! 大丈夫、すぐ取れるって。拭くもん、何もないんだっけ?」


テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

【5】僕らは八神少年探検隊・改~第2章いざ洞窟へ



「うん」

口を真一文字に結んで頷く。

「ちょっと待ってろ」

陽平は少し考える風にしてから、「そうだ」と言うと、しゃがみ込んで、あたりの草をむしり始めた。

「ほら、これで拭け」

そう言って差し出したのは、ヨモギの葉っぱだった。

「これで?」

「だってこの辺、葉っぱしかねぇもん。かと言って、どれでも使っていいわけじゃねぇし。毒のある葉っぱとかあるから、下手したらまけるぜ。でもヨモギは、一応薬草だからよ。手にこすりつけても大丈夫なんじゃね?」

「……そんなもんかな」

半信半疑ながらも、かと言って他に方法もなく、とりあえずヨモギで手をこすってみた。

「綺麗には取れないよぉ」

頬を膨らませる光一に、陽平は苦笑した。

「贅沢言うな。仕方ねぇだろ」

そう言いながら、使用済みになったヨモギを受け取った。

「なんなんだろうな、これ」

ヨモギの成分と混ざり、さらに黒く濁ったその物質。

「コケとか動物の糞とか、全然そういうのじゃなさそうだし」

「動物の糞!? やだよ、そんなの!」

「だから違うっつってんだろ」

言ってから、それを近くに生えていた大きな葉っぱで包むと、自分のポケットに押し込んだ。

「そんなものどうするの?」

新たなヨモギを摘みながら、光一が聞いた。

「うん、持って帰ろうかと思って」

「なんで?」

「だって、これの正体気になるじゃん。学校に持っていって先生にでも聞いてみようかな」

「ふーん。……物好きだよね、陽平って」

「っせーよ。それよりも」

と、陽平は腕を組んで言った。

「とにかくここまで来たぞ」

光一も頷く。

「そうだね。来れたね」

まだサビ臭さの取れない手をぶらぶらさせて言う。

「ヨモギの匂いと混ざって、とんでもないことになっちゃった」

言いながら、ポケットから地図を取り出す。

「えっと。……ここだね、このバツ印。でも、大雑把に書いてあるから、この谷のどこを差しているのかまでは分かんないね」

「だな。ここであるのは間違いないみたいだけど」

なにか目印らしきものはないかと、二人で周辺を探索してみる。

しかし、怪しい文字の書かれた岩や、さらに新たな洞窟など、それらしきものは何もない。

「この地図、大雑把に見えるけど、ちゃんとここまで来れたんだ。意外と正確に書かれてるんじゃないか? だからこのバツも、なにか分かりやすい暗号になってると思うんだ」

陽平が首を捻りながら言う。

「うん。確かに、地図に書かれてあったものは、これまでに全部あったよね。でもこれ、でっかくバツがしてあるだけだよ」

「そうなんだよな。バツが一個、書いてあるだけで……。ん? 待てよ」

そこで陽平は、光一から地図を奪って目を走らせた。

「なんか分かった?」

光一が訊ねる。

「うん。……なぁ、これ」

陽平が地図上のバツ印を指差して言った。

「これ、谷全体がバツ、ってことじゃね?」

「は? 谷全体?」

目を丸くした光一を、陽平が見返す。

「そ。だってこのバツだけ、なんのヒントも書かれてないんだぜ。岩とか洞窟とかは分かりやすかったのに。だからこれも、きっとこのままの意味なんだよ」

「つまり、谷全体にバツってこと?」

「そういうこと」

「でもそれってどういうこと? まさかこの谷の景色がお宝です、なんてオチじゃないよね?」

「さぁ、そこまでは知らねぇよ。俺は可能性を言ったまでだ」

「そんな、無責任な……」

困惑したように光一は呟いて、谷に視線を向けた。

確かに、手付かずの自然が残っている美しい場所だ。

整備された道路は上の方にあるため、ここら一帯だけが取り残されたように、ひっそりと存在している。

美しい。

美しいのだが……。

「いやいや、まさか」

光一は首を振ってから、陽平を見た。

「とにかくもう一度、この辺を調べてみない? 僕、このままじゃ納得できないよ」

「お。急にやる気になったな、光一。実を言うと俺もだ」

ニヤリと陽平が笑う。

「まだ日が暮れるまでに時間がある。もう少し探検してみようぜ」

「うん」

互いにしっかりと頷き合うと、二人は再び探索を始めた。



テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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神無月 大和

Author:神無月 大和
         

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