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『自堕落人間半生記』~大和 四歳

*  *  *  *  *


自分の人生を振り返ってみると、おそらくもっとも古いであろう記憶は、保育園に通っていた四歳のころである。

人によっては胎児時の記憶を持っているらしいので、私の最古記憶が『四歳』というのはいささか情けない気もするが、それ以前の記憶となると、自分でも「夢か幻か」の部類に入ってしまい、正しい記憶なのか自信が無い。

はっきり『記憶』として残っているは、やはり四歳だ。

当時私は、地元の寺が運営する保育園に通っていた。

寺は大きかったが園内は狭く、また、第ニ次ベビーブームであった我が世代は異様に園児の数が多かったため、狭い室内にギュウギュウ詰めにされていた。

寺が運営していたといっても、なにか特別に宗教的な事をやらされていたかというと、そうでもない。

いや、記憶に残っていないだけかもしれないが、普通に登園し、歌を歌い、お遊戯をし、おやつを食べて帰る。それだけのものだった。

のちに、別の寺の保育園に転園するのだが、むしろそちらのほうが、積極的に仏教の教えを行っていたと思う。

それにしても、今思えば、なぜ親がここまで寺保育園こだわったのか謎である。

確かに我が家は仏教徒ではあるが、なんとなく惰性で信仰していただけで、そこまで熱心な仏徒ではなかったと思う。

もちろん、世間並みのことはするのだが……。

まぁ、その辺りのことはいずれ書くとして、今は四歳時の話を進めよう。

最初に通っていたその保育園 ―――仮にA園としよう――― は、あまり日が当たらず、終日暗かったように思う。

それとも私の記憶がポンコツなせいで白黒構成なのか。思い出す園内は、いつもセピア色だ。

そんな中、鮮やかに甦る色がある。それは黄色だ。

教室の脇に備え付けられていた洗面台に、いつも鎮座していた黄色い石鹸。

おそらく、日本人であれば知らない人はいないであろう、レモン形の石鹸だ。

その後、小中高と、ひたすらお世話になった石鹸。

全てがセピア色で浮かぶ記憶の中で、レモン石鹸の黄色だけが鮮明に思い出せる。

それはなぜか。

そこが私のお気に入りの場所だったからだ。

洗面台の前には仕切りが置かれ、いつも教室の中心にいた先生からは、完全に死角となっていた。

子どもの安全が声高に叫ばれる今日、こんな造りの保育園など存在しないだろうが、当時は本当にあったのだ。

わりといい加減な時代だった。

しかし、このいい加減さが、子どもたちのワクワク感を育てる一因であったことは間違いない。

当時、もっとも仲の良かった久美子ちゃん(仮名)と二人、よく仕切りの陰に隠れ、ひそひそと内緒話をしていた。それが私たちの日課だった。

園内に給食室があったため、お昼が近付くと、なんとも香ばしい香りが辺りに漂ってくる。その香りをくんくんと嗅ぎながら、給食の当てっこをしたり、お遊戯会で披露する踊りの練習をしたり、ときには別の友達の下世話な話をしたりと、極狭ながらも、そこは私たちの城であった。

わずか四歳でも、子どもには子どもの社会があるのだ。

そんな私たちが、毎日何気に見ていた黄色。私たちを見守っていてくれた黄色。

その黄色だけが、セピア色の中で今も美しく輝いている。



……さて、余談であるが、実は私は久美子ちゃんの顔をよく覚えていない。

その後の転園によって久美子ちゃんとは離れ離れになるのだが、小学校入学時に再会、そのまま中学まで同じ学び舎で過ごすことになる。

それでも、久美子ちゃんの顔は思い出せない。

あの洗面台での内緒話も、一緒にお遊戯会で踊ったことも、記憶としては残っているのだが、もともと他人の顔を覚えるのが苦手な私にとって、久美子ちゃんは『思い出』の中の一キャラクターに過ぎなくなっていた。

中学を卒業し、それぞれの高校に進んでからというもの、顔を合わせることも思い出すこともなかったのだが、つい最近、ひょんなことから彼女の名前を聞くことになった。

それは母からの話だった。

最初、母がしんみりとした口調で「久美子ちゃんって覚えてる?」と切り出したので、(まさか……死……っ?)と一瞬悪い予感が頭をよぎったのだが(なぜそんな予感が走ったのかは追々書いていきます)、久美子ちゃん自身は結婚もし、子どもも産まれ、幸せに暮らしているらしい。

どうやら問題は、久美子ちゃんの母親。

私は知らなかったのだが、母親同士は今でもちょこちょこと交流があったらしく、その中で、少々トラブルになっていると。

鬱が原因らしいが、頻繁に母の元へ電話がかかってくるので困っているのだそうだ。

「優しく話をすると落ち着くんだけどね」と母は言っていたが、そんなことよりなにより(……と言っては語弊があるが)、卒業から何十年も経った今でも、母親同士で交流があったことに私はすごく感動した。

娘同志は、全くの音信不通状態なのに。

人の縁とは分からぬものだなと感心しつつ、とりあえず評判の良いカウンセラーのいる病院を紹介した。


~了~
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テーマ : エッセイ
ジャンル : 小説・文学

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神無月 大和

Author:神無月 大和
         

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