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『自堕落人間半生記』~大和 六歳②


一年生の時の担任は、ベテランの女の先生だった。

近所によくいる、気のいいおばちゃん風の優しい先生だったと思う。

「他のクラスには、こわ~い男の先生がいるんだって」という噂話を聞いた時は、この先生で良かったと心底ホッとしたものだ。

入学してからしばらくは、とくに勉強らしい勉強もなく、校内の案内や上級生たちとの交流など、そういったことに時間を費やしていた。

集団生活でのマナーや道徳的なことを学び、給食を食べたら即下校。

毎日学校に遊びに行っているようなもので、入学式で再会した久美子ちゃんや新しく友達になった子たちと、まぁ楽しく過ごしていたと思う。

もしかしたら長い学生生活の中で、もっとも楽な時期かもしれない。

ようやく教科書を使って、本格的に勉強が始まったころ、それは起こった。

入学式からちょうど一週間目。

小学生になって初めての日曜日を過ごしたあとの、月曜のことだった。

いつものように登校し、いつものように教室に入った途端、クラスに漂っていた異様な雰囲気を感じ取って、思わず足を止めた。

いつもなら騒がしい声が響き渡っている教室が、水を打ったように静かなのだ。

先に登校していた子たちは、いくつかのグループに分かれて、声をひそめて何やら話をしている。

先生はというと、教室の前方にある教卓に突っ伏していた。

なんとなく元気よく挨拶するのがためらわれた私は、あたりを窺うように静かに足を進めて自分の席に行き、そして気づいた。

私の隣りの席に、花が活けてあるのだ。

小さい花瓶に綺麗な花。

私は首を傾げた。

その席は、ほかの幼稚園から来た男の子の席だ。

隣りなので挨拶ぐらいはしていたが、それ以外、ほとんど話したことはなかった。

その子の机の上に、鮮やかな花が活けてあるのだ。

今ならその意味が分かるが、当時の私にそんな知識はなく、ただただ不思議だった。

なんだろう? と思いながら花に触れようとした時、突然強く腕を掴まれ、そのままズルズルと教室の隅に連れて行かれた。

久美子ちゃんだった。

目を丸くする私に、久美子ちゃんが囁いた。

「死んじゃったんだって」

一瞬、思考が止まった。

え? なになに? と戸惑う私に、久美子ちゃんがもう一度言った。

「昨日、車にひかれて死んじゃったんだって、〇〇君」

・・・私が人生で初めて経験した身近な死は、クラスメイトの死だった。

まだ誕生日が来ていなかったから、六歳だ。

たった六歳で彼は逝った。

ほとんど話をしたことはなかったが、ただ、お互い誕生日が近かったこともあり、そのことについて、なにやら話したことはあったと思う。

出会ってたった一週間で、彼とはお別れが来てしまった。

その後に始まった朝の会で、先生が泣きながら経緯を話してくれた。

日曜の夕方、〇〇君は、車の後ろに回り込んで遊んでいたらしい。

そのことにドライバーが気づかず、バックをしてしまったということだ。

どちらにとっても不幸な事故だ。

ドライバーがきちんと確認をしていれば。〇〇君が遊ぶ場所を変えていたら。そうすればこんな事故は起こらなかった。

先生はそう言って、長い時間を使って、私たちに交通ルールの重要性を説いた。

その日一日、私は花とともに授業を受け、その後、男の子の列はひとつづつ前に詰められた。


~了~


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神無月 大和

Author:神無月 大和
         

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