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『自堕落人間半生記』~大和 六歳③


衝撃的な幕開けだった私の小学校生活。

事の重大さに神妙な雰囲気が漂っていた教室だったが、徐々に活気を取り戻していった。

その背景には、入学早々行われる運動会もあったと思う。

我が母校はなんとも迷惑なことに、春と秋の二回、運動会が行われるのだ。

といっても、春に開催されるのは通常の運動会ではなく、むしろ全校一斉体育といった感じの、こじんまりとした大会だった。

むろん保護者の来校もなく、児童はただひたすら運動場を走り回る。

団技も遊戯もない。

徒競走や障害物競走といった、個人競技が主となる。

午前中のみの開催だったが、入学式以降の体育の時間は、ほぼ運動会対策に充てられるといった力の入れ具合だったので、否応なしにも子どもたちは盛り上がった。

そんな運動会の直前だったと記憶する。

私とさくらちゃんは、学校を休んだ。

いや、休んだという表現は適切ではない。

丁寧に言えば自発的休暇、社会的に言えば無断欠席、砕けた言い方をするならサボりだ。

そう、ようするに、学校をサボったのだ。

小学一年生ですでにこれである。

しかし、これには少々事情があった。

私とさくらちゃんは互いに含みを持ちながらも、やはり幼馴染ということもあって、クラスは違えど、登下校は常に一緒だった。

毎日、私がさくらちゃんの家に立ち寄ってから、二人で学校に向かうのが習慣になっていた。

その日も、私たちはいつも通り学校に向かった。

とくに変わったことはなかった。

だらだらと長い道を歩き、校門をくぐる。

別に遅刻した訳でも、道すがら上級生にからかわれたわけでもなかった。

それなのに突如、さくらちゃんが言ったのだ。

「教室に行くのやめよっか」

靴箱までもう一息。そんなタイミングだった。

私は驚いて、

「なんで?」

「行きたくなくなったから」

「だめだよ。先生におこられちゃうよ」

「大丈夫だよ。きっと先生、気づかないよ」

「・・・そうかな」

「そうだよ。あたしたちぐらいいなくても、わかんないよ」

・・・大学ならいざしらず、小学校で無断欠席が出て気づかないはずはないのだが、なんとなく私もその気になり、じゃあ行くの止めようという流れになった。

そんな話をしている私たちの横を、子どもたちが通り過ぎていく。

なかなか靴を履き替えない私たちに不審そうな視線を送ってくる子もいたが、とくになにも言わず、みんなそれぞれの教室へと向かう。

あらかた人がいなくなり、チャイムが鳴る直前に、私たちは運動場の片隅に建てられたアスレチックへと走った。

そこにはたくさんの遊具があり、身を隠す場所はいくらでもあった。

そのひとつに入り込み、私たちはジッと息をこらした。

ややあって、近くに設置されたスピーカーからチャイムが流れた。

朝の会が始まるのだ。

このチャイムが鳴りやむと同時に号令がかかり、先生が一人づつ名前を読み上げながら出席をとる。

ここで私は気づいた。

「ねぇ、やっぱり先生、気づくんじゃない? あたしたちがいないこと」

さくらちゃんにそう問うたが、さくらちゃんは返事をしない。

「やっぱり行こうよ」

何度か説得を試みるも、さくらちゃんはやっぱり何も言わない。

この際、私だけでも行こうかと思ったが、なんとなくそれもためらわれ、仕方なく私も黙った。

朝の喧騒がなくなり、校内は静まり返っている。

各教室で朝の会が進行しているのだから、当たり前である。

一時間目に体育があるであろうクラスも、まだ運動場には出てきていない。

そんな中で数分の沈黙ののち、さくらちゃんが突然、

「帰ろう」と言って立ち上がった。

私は目を丸くした。

「え? 帰る? 家に?」

戸惑う私に構わず、さくらちゃんはさっさと裏門に向けて歩き出す。

裏門は、アスレチックのすぐ脇にあった。

その当時は柵もなく、入ろうと思えば自由に出入りできるようになっていた。

余談だが、この裏門、現在では封鎖されており、学校のほぼ全体を巨大なブロック塀で囲ってある。

時代の流れというものか。

私の子ども時代は、あらゆることに無防備であった。

近くの住人が犬の散歩に、当たり前のように校内に入り込むほどだったのだ。

まぁさすがにこれは、ほどなくして学校側から意見が出され、禁止になったが。

現在の母校にも、避難用に裏門が設置されているはずだが、それがどこなのか、今の私では知る由もない。

きっと普段は出入りできないように、厳重に管理されているのだろう。

裏門を抜け、私たちは建物の影を通りながら、帰路についた。

(おまわりさんに見つかったらタイホされるんじゃないか)
(今ごろ先生はカンカンに怒っているんじゃないか)

だんだんと不安が積もっていくが、どちらも学校に戻ろうとは言わなかった。

やがて家の近くまで来たが、そこではたと止まり、さてこれからどうしようかと悩んだ。

さくらちゃんの家は美容室だ。

家に戻れば親がいる。

私の家は共働きだったが、まだ母親が出勤前だ。これまた家にいる。

のこのこ帰宅すれば、互いの両親から大目玉を食らうのは目に見えている。

つまり私たちは、なんとなく帰っては来たものの、そこから先はどうすることも出来ず、立ちつくしてしまった。

「・・・どうするの?」

さくらちゃんに聞いても返事は無い。

「さくらちゃんが帰るって言ったんだよ」

やや責めるように言っても、さくらちゃんはジッと下を向いたままだ。

私は少し腹が立った。

さくらちゃんが帰ろうと言って学校を出たのだ。私はいわば、さくらちゃんのわがままにつき合わされただけだ。

それなのに、当の本人は黙り込んだままで動こうとしない。

もともと対立していた二人だ。

ここぞとばかりに、私はさくらちゃんを責めたてた。

「ねぇ、どんすんの? ずっとここにいるの? もしおまわりさんに見つかったから、さくらちゃんのせいだからね」

不満を思いきりぶつけると、さくらちゃんが泣きそうな顔で私を見上げた。

何か言いたいことがあるけど言えない、そんな表情だ。

お人形のような大きな目を潤ませて、ジッと私を見つめるさくらちゃんに思わずたじろぎながらも、私は強い口調で、

「ねぇってば!」

と詰め寄った。

さくらちゃんは、ますます泣きそうになった。

その時だった。

「いた!」

と声がして、さくらちゃんの腕を誰かが掴んだ。

びっくりして見上げると、それはさくらちゃんのお母さんだった。

さくらちゃんを掴んだまま、さくらちゃんママは後方に向かって、

「二人ともいたよ!」

と叫んだ。

その向こうから、サンダル姿で走ってくるのはさくらちゃんのお父さんだ。

二人とも鬼のような形相である。

私たちは絶望的な思いでうつむいた。




そのまま私たちは、さくらちゃんちの車で学校の保健室に連れて行かれた。

着いたのとほとんど同じ頃に、私の母もやってきた。

これまた鬼の形相だ。

母は怒ると本当に怖いのだ。私は心臓が縮み上がった。

他にも保健室には、二人の担任の先生もいた。

どうやら二人そろって無断欠席したことが問題となり、みんなで探し回っていたらしい。

当然である。

大人に囲まれた私たちは、小さくなるしかなかった。

親や先生が厳しい表情を浮かべる中、保健の先生が優しく、

「どうして学校に来なかったの?」

と聞いてきた。

「なにか悩み事があるのかな? 誰かにいじめられた?」

そう聞かれても、私に理由はない。

肝心のさくらちゃんは黙ったままだし、私も答えようがないので、仕方なく黙っていた。

すると、ついにさくらちゃんパパが、

「いい加減にしろ!」

と怒鳴った。

「理由も無いのに学校を休むなんて許さん!」

私たちは飛び上がるほど驚き、そしてとうとうさくらちゃんが泣き出した。

「教科書・・・教科書が・・・音楽の・・・」

そう言って、さくらちゃんはわんわんと泣きじゃくった。

・・・この日、さくらちゃんのクラスでは音楽の授業があったらしい。

そのことをすっかり忘れていたさくらちゃんは、教科書を持って来なかったことを、学校に着いてから思い出したのだ。

忘れ物をするなんて、どれだけ先生から怒られるか。

そう思うと怖くなり、教室に行けなくなってしまったのだ。

・・・前回、ちらりと話した『他のクラスの怖い先生』というのは、実はさくらちゃんの担任のことだった。

無断欠席のほうがよほど怒られることなのだが、その時のさくらちゃんには、教室に行くことのほうが恐怖だったらしい。

結果、『学校を休む』という手段に出てしまった。

でも一人では心細かったので、私を強引に引き込んだのだ。

泣きながらそう話すさくらちゃんに、大人たちは一様に黙り込んでしまい、結局私だけが先に教室に戻された。

教室では、みんなが興味津々に私を見てきたが、先生はとくに説明はせず、そのまま授業に入った。

当然、私は休み時間にクラスメイトの質問攻めにあったが、さくらちゃんのことを話していいものか分からず、適当に言葉を濁してやり過ごした。

なんとも居心地の悪い一日だった。

さくらちゃんはというと、音楽の教科書を隣りの席の子に見せてもらうという、ごく一般的な解決方法で、その日を終えたらしい。

とりあえず、帰宅後は母に怒られなかったことだけが、私にとっては救いだった。


~了~


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神無月 大和

Author:神無月 大和
         

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