FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『自堕落人間半生記』~大和 七歳②


今回は、これまでとは少し毛色の違う話をしよう。

いや、むしろ、私らしいといえば私らしいのか。

それは二年生の秋口のことであった。

確か二時限目が終わったあとの休み時間だったと思う。

我が母校では、基本的に休み時間は十分間なのだが、二時限目の休みだけ十五分間が設けられていた。

その時私は、教室内で友達と他愛もない話をしていた。

いつもと同じ、なんら変わりのない休み時間だった。

だらだらと喋っていると、ふいに廊下が騒がしくなった。

少し遠い所からいくつかの悲鳴と、バタバタと走り回る喧騒が教室に伝わってきたのだ。

教室に残っていたメンバーが顔を見合わせた時、一人の女の子が叫びながら飛び込んできた。

「トイレ! トイレの壁から青い手が出てる!」

間髪入れずに私たちは教室から飛び出した。

左右を見渡すと、教室を出て左手側にあるトイレの前に、人だかりが出来ているのが見えた。

そこは、校舎の一番左端に位置する女子トイレで、学校の七不思議に数えられていた。

曰く、『夕方、奥から二番目のトイレに入ると、ドアの上から女の幽霊が覗き込んでいる』といった、わりとオーソドックスなものだったが、本気にしている児童は多く、そのトイレを使用するときは、必ず誰かと一緒に行くのが常になっていた。

とはいえ、そこはほぼ一年生しか使わない。

一年生の教室の隣にあったからだ。

騒動の発端も、一年生だった。

ある女の子がトイレに入った。

何事もなく用を足したが、トイレを出る際になって、ふと違和感を感じたらしい。

なにか目の端に鮮やかな色が映ったような気がして、その子はなんとなく、扉が開いたままになっていた用具入れを覗き込んだ。

そこは、トイレ掃除に使うタワシやモップ、雑巾などが納められている。

そこで見たのだ。

壁の中からにょきっと突き出している青い手を。

それは、とても綺麗な青色だったという。

手に続いているはずの胴体や下半身、頭部のようなものは一切なく、ただ青く光る細長い腕だけが、まるで壁から生えているかのように突き出していた。

しかもそれは、命があるがごとく、くねくねと奇妙な動きを繰り返していたらしい。

女の子は悲鳴を上げてトイレを飛び出した。

休み時間だった廊下にはたくさんの児童がおり、女の子から事情を聞いた子どもたちが次々と、好奇心いっぱいにトイレへ飛び込み、そして同じように悲鳴を上げた。

ある者は泣き出し、ある者は硬直し、ある者は震えた。

私たちが駆け付けたのは、まさにそういった瞬間だった。

私はクラスメイトの加代子ちゃん(仮名)に手を引かれて、トイレの入り口まで来た。

群がる子どもたちを押しのけて、中を窺う。

用具入れは、出入り口にもっとも近い位置にあるものの、外開きの扉が邪魔をして、中までは見えない。

まずは、果敢にも加代子ちゃんが飛び込んだ。

扉の向こう側に回り込み、中を覗く。

「ほんとだ! ほんとに青い手が出てる! ほら大和ちゃんも見て! 壁から青い手が出たり引っ込んだりしてるよ!」

加代子ちゃんが興奮気味に手招きをしながら私を呼んだ。

ところが・・・私はあろうことか、すっかり臆してしまい、中には入れなかった。

まったく、大和一生の不覚である。

今も昔も、怖いものや不思議なものが大好きなくせに、よりにもよって最大の好機に、私は踏み込めなかったのだ。

あまりにも怖すぎて・・・。

今だったら、誰よりも真っ先に飛び込んでみせる自信がある。

幽霊を見るためなら、貯金をはたいても良い。

・・・まぁ、たいして無いが。

しかし、このときはまだ、か弱い小学生だったのだ。

背後で泣き続ける一年生や、「ほら見て見て!」と指差す加代子ちゃんに、すっかり足がすくんでしまった。

加代子ちゃんが私の手を掴んでトイレに引き込もうとしたのを力いっぱい振り払い、その場から逃げた。

逃げたときにチャイムが鳴った。

これ幸いとばかりに、教室に駆け込む。

他の子どもたちも、それぞれのクラスに戻っていく。

しばらくはざわついていた教室も、授業が始まるとともに、次第に落ち着いていった。

その後、お昼休みに私たちは、再びそのトイレに行ってみた。

今度こそはと勇気を振り絞って覗いてみたが、そこには見慣れた掃除用具があるだけで、青い手はおろか、不可思議なものは何ひとつなかった。

私は加代子ちゃんに、

「本当にあったの? 青い手」

と聞いてみた。

すると加代子ちゃんは、真剣な顔で大きく頷いた。

「うん。そこの壁からね、青い手がにゅうっと出たり入ったりしてたんだよ」

そう言って、なぜかにっこり笑った。

その後、再び『青い手』が出現したという話は聞こえてこない。

あの騒動はいったいなんだったのか。

女の子は何を見たのか。

本当に加代子ちゃんは『青い手』を見たのか。

加代子ちゃんの意味ありげな微笑みはいったい・・・。

真相はいまだ、闇の中。



~了~


スポンサーサイト
お知らせ

神無月 大和

Author:神無月 大和
         

カウンター
ブロとも申請フォーム
18歳未満の方はお断りいたします。ブロとも一覧は公開しておりません。お気軽に申請してくださいませ。

この人とブロともになる

最新記事
カテゴリ&作品名(『』表記)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。