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『自堕落人間半生記』~大和 十歳①


この年は、なかなか波乱万丈な一年であった。

五年生になったある日、私のクラスに一人の転校生がやってきた。

里奈ちゃん(仮名)という、とても可愛らしい女の子だ。

バレーボールが得意で勉強もよくできる、いわゆる都会っ子である。

初日は、みんなもの珍しそうに、やや遠巻きに里奈ちゃんを見ていた。

里奈ちゃんは、これが幾度目かの転校らしく、そういった好奇の目にも慣れているみたいで、とくに物怖じすることもなく、黙って席に座っていた。

私はというと、もともと人見知りなほうなので、自分から話しかけることもなく、いつも通りに友人たちと過ごしていた。

そのうち里奈ちゃんは、クラスの中でも活発な女の子たちのグループと、行動を共にするようになっていた。

里奈ちゃん自身も活発なタイプだったので、彼女たちと気が合ったようだ。

こうして、新しいクラスメイトを迎えて、何事もなく五年生が始まったかに思えた。

・・・クラスの異変に気付いたのは、それから一か月ほど経ってからだ。

なんとなく、クラス全体が空々しい空気に包まれていたのだ。

どこからかピリピリした空気が流れてくる。そんな感じだった。

それはどうやら里奈ちゃんを迎え入れた、あのグループが発しているようだ。

しかし、私はとくに気にしてはいなかった。

彼女たちとはほとんど交流がなかったからだ。

彼女たちの内部分裂は日常茶飯事だったし、またなんかケンカでもしてるんだろうな、ぐらいにしか考えていなかったのだ。

それにしては、ほかのグループまでピリピリしているのは解せなかったが、まぁ私には関係ないやと思っていた。

そうやって、対岸の火事を決め込んでいた私に、とうとう火の粉が降りかかる時がやってきた。

それは、何かの用事で友人と離れ、一人で教室にいたときだった。

お昼休みだったと思う。

ほとんどの児童は運動場に出ていたので、教室に残っていたのは私と、例のグループだけだった。

ただ、里奈ちゃんはいなかった。

そういえばその頃、里奈ちゃんが彼女たちと一緒にいるところをあまり見かけなくなっていたが、とくに興味もなかった私は、あまり深くは考えていなかった。

そしてその日、本を読みながら友人の帰りを待っていた私に、グループのリーダー格の子が話しかけてきた。

ぷーちゃんだ。

もちろん仮名だ。

『ぷーちゃん』というのは、私が心の中でひそかに呼んでいた彼女のニックネームである。

その、ほとんど話したこともないぷーちゃんが、数人の女の子を引き連れて私に話しかけてきた。

「ねぇ大和ちゃん。里奈ちゃんのこと、どう思う?」

唐突にそう聞かれ、私は目を丸くした。

「どうって? なにが?」

「いいから。どう思うかって聞いてんの」

「どうって、べつに」

「べつになに? すき?」

「すきってわけじゃあ・・・」

「じゃあ、きらい?」

「きらいってわけでも・・・」

「ふーん」

そう言ってぷーちゃんは鼻を鳴らすと、

「きらいじゃないんだ。わかった。みんな行こ」

と、教室を出て行ってしまった。

ひとり残された私は、質問の意図が分からず、しばらくぽかんとしていたが、まぁいいやと再び本を読み始めた。

が、その『意図』はすぐに分かった。

ぷーちゃんたちが出て行き、数分後に私の友人が戻ってきた。

私は本を置いて彼女に駆け寄ったのだが、彼女が妙によそよそしい。

話しかけても返事をしないし、目も合わさない。

(ん?)と不思議に思っていると、教室のドアがガラリと開いて、ぷーちゃんが顔を出し、友人に言った。

「〇〇ちゃん、一緒に遊ぼ」

気持ち悪いぐらいの猫なで声だ。

というか、これまで友人がぷーちゃんと親しくしている場面など見たこともない。

それなのに・・・「一緒に遊ぼ」?

面喰っている私を尻目に、友人は逃げるようにぷーちゃんのあとを追って行った。

その後、友人は昼休みが終わるまで帰って来ず、帰ってきたあとでも、私には近寄ってこなかった。

いや、それだけではない。

よそよそしくなったのは、友人だけではないのだ。

その直後から、クラスの女子全員が私を避けるようになったのだ。

なにがなんだかさっぱり分からなかった。

なぜ突然、クラスから無視されるようになったのか。

ぷーちゃんとの問答になにかあるのか。

誰かに聞きたいが、私が近寄るとみんな逃げていくので、真相を確かめようがない。

取りつく島がないとはこのことである。

その様子を、ぷーちゃんが教室の後ろからニヤニヤしながら眺めている。

・・・はっきりいって、保育園時代のさくらちゃんレベルではない。

徹底した統制っぷりだ。

ワケが分からないまま午後の授業が終わり、放課後になった。

いつもなら友人にサヨウナラを言い、別クラスの真由美ちゃんを迎えに行くところだが、友人はぷーちゃんのグループに囲まれてしまっている。

近づけるような雰囲気ではない。

ほかのクラスメイトも、私の周囲をあえて避けるようにして教室から出ていく。

悔しいやら悲しいやらワケが分からないやら、複雑な感情を抱きつつも、とにかく真由美ちゃんのところへ行こうと廊下を出たそのとき、

「大和ちゃん」

と誰かに呼び止められた。

振り向くと、そこにいたのは里奈ちゃんだった。

里奈ちゃんから話しかけられたのは、おそらくその時が初めてだったと思う。

「なに?」

と聞くと、里奈ちゃんはあたりを窺うように声を潜めながら、

「ちょっといい?」

と言い、返事を待たずに私を階段の陰に連れて行った。

「どうしたの?」

「・・・大和ちゃん、みんなに無視されてるよね?」

里奈ちゃんが申し訳なさそうに言う。

「ああ、うん。そうみたいだね」

私が軽い口調で答えると、里奈ちゃんは拍子抜けしたように目をぱちぱちさせ、

「わりと平気そうだね」

と苦笑いした。

私も同じように笑ってから答えた。

「いや、ショックはショックだけど、いまいち状況が分からないから」

そう言うと、里奈ちゃんは少しうつむき加減に、

「ごめんね」

と言った。

「なにが?」

「あたしのこと、きらいじゃないって言ってくれたんでしょ?」

「ああ・・・うん、言ったね」

「それが原因なんだ」

・・・つまり、私はぷーちゃんに『里奈ちゃん派』と位置付けられ、そのせいでみんなに無視されるようになったらしい。

と説明しても、読んでいる方にはさっぱり分からないだろう。

当時の私も分からなかった。

なので、一から全部里奈ちゃんに説明してもらって、ようやく合点がいった。

ようするに、グループ内で、ぷーちゃんと里奈ちゃんが対立してしまったらしい。

といっても、里奈ちゃんには思い当たる節はないという。

ただある日突然、「里奈ちゃんって生意気」と言われ、仲間外れにされるようになったというのだ。

思うに、それまで女王のようにグループに君臨していたぷーちゃんが、リーダーシップがあり、瞬く間に男子の人気をかっさらった里奈ちゃんに嫉妬した、というところだろう。

ぷーちゃんは里奈ちゃんをグループから追い出したのだ。

しかし、それだけではぷーちゃんの腹の虫は治まらなかった。

仕方なく別のグループに移ろうとした里奈ちゃんの先手を打って、里奈ちゃんと仲良くしないよう、各グループを脅して回ったのだ。

しかし、それでも里奈ちゃんはくじけず、根気よく、ほかのクラスメイトに話しかけていった。

それが、ぷーちゃんの闘争心にさらに火をつけたのだ。

二つほどのグループを掌握したあと、ぷーちゃんは方針を変えた。

まだ声をかけていないクラスメイトに、理由は告げず、突然「ねぇ、里奈ちゃんのこと好き?」と聞くのだ。

この時、「きらい」と答えたらお咎めなし。

しかし、「すき」もしくは「どちらでもない」と答えた者は敵とみなし、みんなで無視をする。

この『突然、訊く』という点に、ぷーちゃんの策略家っぷりが現れていると思う。

相手に考える隙を与えず、本音を聞き出そうとする、とても高等なテクニックである。

とはいえ、ほんとんどの子は、これには引っ掛からなかったようだ。

ぷーちゃんの殺気(?)を感じ、みんな咄嗟に「きらい」と答えていたのである。

「きらい」と答えた子は、みんなから無視されることはないけど、その代わり、自分も里奈ちゃんを無視する側に強制加入させられるのだ。

そうやって着々と、ぷーちゃんはクラス内で勢力を強めていった。

どうりで教室内に、空々しい空気が流れていたわけだ。

そして私は納得した。

つまり、私は馬鹿正直に「きらいじゃない」と答えてしまったばっかりに、みんなから無視されるという事態に陥ってしまったのだ。

空気を読めない人間は、よくこういう事態に陥りがちだ。

「べつにィ~私ィ~、周りのこととかァ~、興味ないしィ」などと斜に構えてカッコつけてると、こういうことになる。

きっと友人は、教室に戻ってくる直前に、廊下でぷーちゃんになにか言われたのだろう。

実際にどんな駆け引きがあったのかは、いまだに分からない。

グループのみんなに囲まれて、「大和ちゃんと里奈ちゃんを無視するように」と脅されでもしたか。

気の弱い子だったから、反抗できなかったのかもしれない。

・・・ということにしておこう。

とにかく、その日に友人との友情は終了した。

代わりに、私と里奈ちゃんの間に新しい友情が芽生えた。

そりゃそうだろう。

クラスの中で私たち二人だけが無視されるということは、逆に言えば、私たちの間を邪魔するものは何もないというわけだ。

私はもともと人見知りなほうだから、ぷーちゃんどころか他の子ともそんなに親しかったわけではないので、無視されたところで、とくに大きなダメージはなかった。

転校経験豊富な里奈ちゃんは、こういうトラブルには慣れているようで、こちらもとくにダメージは食らっていないようだった。

結果的に、ぷーちゃんのおかげで、私には新しい友人が出来たのだ。

ぷーちゃんに感謝である。

ちなみに、この『ぷーちゃん大作戦』は、ほんの二、三か月ほどしか続かなかった。

途中でみんなが飽きてきたようで、いつの間にか、元のクラスに戻っていた。

あのぷーちゃんですら、私に家に遊びにくるぐらいまで和解(?)していたのだ。

まったく現金なものである。

しかし、ぷーちゃんとの関係はその後、完全に亀裂が入ってしまい、高校まで一緒だったにも関わらず、一言も喋ることはなかった。

・・・なにがあったのか。

これまたよく分からない。

ぷーちゃんがわが家へ遊びにきた次の日、突然、「もう大和ちゃんの家には遊びに行かない!」と宣言されたのだ。

なにが気に入らなかったのかさっぱり分からないが、「行かない」と言われてしまっては、こちらとしてもどうしようもないので、

「そっか。まぁ、いいよ別に」

と答えた。

するとぷーちゃんが号泣した。

わんわんと大きな声で泣き叫び、そして走り去った。

やっぱりワケが分からない。

「行かない」と言われたから「分かった」と同意しただけだ。

それなのになぜ泣くのか。

意味不明である。

教室に帰ると、「大和ちゃんに泣かされた!」とぷーちゃんが大騒ぎしており、またしても私は、みんなから冷ややかな目で見られる羽目になった。

・・・別に泣かせてはいない。

ぷーちゃんがケンカを売ってきて、そして勝手に泣いたのだ。

とんだ言いがかりである。

・・・という言い訳を聞いてもらえそうな雰囲気ではなかったので、私は彼女たちをスルーして、苦笑いしてこっちを見ている里奈ちゃんのもとへと寄った。

里奈ちゃんは、「大変だったね」と言ってくれた。

「もうどうでもいい」

と私が言うと、里奈ちゃんはけらけらと笑った。

その後、里奈ちゃんは中学生の時に転校してしまうのだが、それまでの間、私たちは本当によく遊んだ。

お互いの家にお泊りしたり、交換日記をしたり・・・。

小学校六年間の中で、彼女と過ごした時間が、もっとも楽しい時間だった。


~了~


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神無月 大和

Author:神無月 大和
         

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