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【19】僕らは八神少年探検隊・改~第5章 日記


【八月●日】
朝から飯塚のおじいちゃんが、狂ったように喜んでいた。
供物を龍神様が食したあとがあったと、泣いて喜んでいた。
だれかか食べたんじゃないかと言うと、わしはずっと夜中起きて、みんなを見張っていた。誰も起きなかったと得意げに言った。
みんなすごいすごいと喜んだ。
飯塚のおじいちゃん、だれかがつまみ食いしないように見張ってたんだ。一晩中。
なんてあさましい。
なんでみんなそんなに、おじいちゃんをたたえるのだ。
みんな、疑われていたことに気付いていない。
私にはなんとなく分かった。
あの子が食べたんだ。
洞窟の脇道にお供えしていたツボと花瓶に、また新しい果物やお花を入れた。今日もみんな怖かった。

【八月■□日】
朝方、ふと目を覚ますと、脇道のほうに向かう緑色の背中が見えた。
魚のようなヒレがついている。
そっとあたりを見回すと、みんなゴザの上でよく寝ていた。
飯塚のおじいちゃんも、ぽかんと大きく口を開けて寝ていた。
いつの間にか、見張りも置かなくなった。
いつまでここにいるんだろう。
馬鹿らしい。
私は緑の背中を追った。
緑色の人は、ツボのふたを開けると、おいしそうに食べ始めた。
龍神様ですかと聞くと、緑の人は目をぱちぱちさせて、ツボから取り出した山苺を、私にくれた。
私はそれを食べた。昨日のお礼なんだと分かった。
おいしかった。もう一度、龍神様ですかと聞いた。
緑の人は、また目をぱちぱちさせて、腕いっぱいに果物を抱えると、楽しそうに洞窟の奥に消えた。

【八月△日】
みんな、手を叩きながら喜んだ。
もうすぐ龍神様が願いを叶えて下さる。もうすぐアメリカに天罰が下ると、騒いだ。
飯塚のおじいちゃんは、夕べも誰一人、祭壇に近寄ったものはおらぬ。故に、中身がなくなっているのは、龍神様がわれわれの味方についてくれた証拠だと、声高にさけんだ。
私が近寄ったことは知らないらしい。しかも私は中の苺を食べた。
みんな、日を追うごとに、言葉の汚さが強くなっている。
どれだけアメリカを憎んでいるか、よく分かる。
でも誰一人として、戦争をやめろとは言わない。
意味のないことだと、誰も気付かない。
今日も外に出て、果物を探した。この時間だけは楽しい。
でも、人を呪うための行為だと思うと、泣きたくなる。

【八月●▲日】
みんなが寝静まったころを見計らって、祭壇に行ってみた。
龍神様がいた。花瓶をお腹に抱え、むしゃむしゃと果物を食べていた。
龍神様は私をみると、こちらに来るように目で合図した。
なんとなく、そう言っているのだと分かった。
私が龍神様の隣りに腰を下ろすと、いくつかの果物を差し出してきた。
私は受け取ったが、食べる気になれなかった。
龍神様が不思議そうな顔をした。だから私は思い切ってたずねた。
これを食べつくしたら、アメリカをやっつけてくれるのですか。
そうしたら私たちは幸せになれるのですか。
反対に、私たちが、アメリカのお母さんや子どもたちに怨まれることになったりはしないのですか。
みんなが幸せになれる方法はないのですか。
龍神様ならそれが出来るのではないですか。
でも龍神様はなにも答えず、洞窟の奥に消えた。

【八月▲▲日】
村の様子を見に行っていたタエ子ちゃんのお父さんが、顔を真っ青ににして帰ってきた。
広島に大きな爆弾が落とされたそうだ。
その何日か前には、長崎にも落とされていて、尋常ではないほどの被害が出ているのだという。
落としたのはアメリカと聞いて、みんないきり立った。
天誅なんかくだっていないではないか。
むしろ日本での被害が拡大しているではないか。
いや、待て。もしかしたら供物の量が足りていなかったのではないか。
もっともっとたくさん、お供えするのだ。
なんとしてでもアメリカに天罰を与えるのだ。
そう言って今度はみんなで山に入り、果物だけでなく、小動物や鳥まで捕まえてきた。
それらをツボに押し込んだ。まだ息がある動物の声が洞窟内に響いた。
でもみんな、そんなことには構わず、ツボにフタをした。
ツボの中で何かの鳴き声が聞こえる。
花瓶のほうは、口が小さいので、これまで通り、果物やお花が入れられた。
そのあと、これまで以上に激しい呪いの言葉が振りかけられた。
髪を振り乱し、血走った目で呪いの言葉を吐くみんなの姿が怖くて、ひとり離れたところに立っていた。
長崎に親戚がいると、誰かのお母さんが泣きながら叫んでいる。
夫が戦争に取られたまま、行方知れずになったと他のお母さんが泣いている。
息子が、親戚が、家が、両親が、娘が、と、みんな叫んでいる。
私の母はちゃんと生きている。
父は戦争とは関係なく、物心ついたときにはもういなかった。
兄妹も元々いない。家は無事だった。
みんな戦争によって、家族を失っている。
ますます戦争の意味が分からなくなった。


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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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神無月 大和

Author:神無月 大和
         

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