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【20】僕らは八神少年探検隊・改~第5章 日記


何気に振り返ると、龍神様が物陰に隠れて立っていた。
どことなく悲しげに見える。
私はなんとなく頷いてみせた。

その夜私は、植物だけが入った花瓶を抱え、そっと脇道をすすんだ。
確かこの先は谷間に繋がっていたはずだ。
後ろから龍神様が付いてきてるのが分かる。
暗い洞窟を抜けると、やはり谷間に出た。
真夏とはいえ、真夜中の風は冷たく心地いい。
私はうしろを振り返って、龍神様に話しかけた。
あんな悲しみが詰まったツボの供物は食べないでほしい。
こっちの果物だけを龍神様には食べていてほしい。
あんなところにいると、龍神様のお心まで人間の毒で汚されてしまうような気がする。
どうかこの美しい谷間で、のんびりと暮らしてください。

すると龍神様は、背中のヒレの間から何かを取り出して私に見せた。
それは青い無花果だった。
くれるんですかと聞いたら、龍神様はこくんと頷いた。
初めて龍神様と意思疎通ができた瞬間だった。
私は笑った。
青くて食べられないから、これはこの谷のどこかに埋めましょう。
熟すまえに摘んでしまったから、もう新しい種を作り出すことは出来ないけど、奇跡を信じて埋めましょう。
そう言って私はぐるりと谷を見回し、一番人目に付きにくい洞窟の出口の真上の藪の中に、青い無花果を隠すように埋めた。
私が作業をしている間に、龍神様も隣りに寄ってきて、静かに花瓶を私に向けた。
これも? と聞くと、また龍神様はこくんと頷いた。
私は笑った。
笑って、その花瓶を、無花果を埋めたあたりに置くと、周りの草やツタで花瓶を隠した。
まるで友情の証みたいだと言うと、龍神様が頷いた。
私は持ち歩いていた日記張の最後のページを破り取ると、簡単な地図を書いた。
いつか戦争が終わって、ここに来ることがなくなっても、この場所を忘れないように。
私だけがわかる秘密の地図を書いた。

【八月×日】
日本は戦争に負けたと、天皇陛下から直々にお言葉が下った。
みんな悲しみに暮れた。
泣いて泣いて、でも、どこかほっとした表情をしていた。
でも飯塚のおじいちゃんだけは違った。
怒り狂っていた。
龍神様の伝説なんて嘘っぱちだ。
喰うだけ喰って、願いを叶えてくれないなんて許せないと叫んでいた。
あんな場所、塞いでしまえと怒鳴り散らし、老人を持て余した若者たちが、祭壇を設けていた脇道を板で塞いでしまった。
もうここから、谷間に降りることは出来なくなってしまった。
龍神様は大丈夫だろうか。
あのまま美しい谷間にいてくれているだろうか。
もう少し身辺が落ち着いたら、会いに行ってみよう。

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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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神無月 大和

Author:神無月 大和
         

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