あれは確か、中学二年の晩夏だったと思う。
その日私は、自室でひとり、本を読んでいた。
作品名は失念したが、時が経つのも忘れて読みふけり、ふと気が付いた時には、すでに深夜一時を回っていた。
私は慌てて本を閉じ、布団に潜りこんだ。
翌日(零時を回ったから当日だが)、友人と出掛ける約束をしていたのだ。
遅刻をすると怒られるので、私は必死に寝ようとしたが、面白い本を読んでいた直後で気持ちが高ぶっており、なかなか寝付けなかった。
それからどれほどの時が経ったか。
閉じることを拒否する瞼と格闘を続け、ようやくうとうととし始めたその時、突然体の上に、なにかが覆いかぶさってきた。
当時私は、夏場でも、頭まですっぽりと布団を被らないと、落ち着いて眠れぬ子どもだった。
そのため、視界が布団に遮られ、自分の身になにが起きたのか、まったく分からなかった。
突如身体を羽交い絞めにされ、自由が利かなくなったのだ。
次の瞬間、意識が眠りの淵から一気に覚醒し、それが夢ではなく現実に起こっていることだと、はっきり認識できた。
とても恐ろしかった。
身体が締め付けられ、身をよじるどころか、指一本動かすことすら出来ぬのだ。
身体全体にかかる重量も少しづつ増えて行き、そのまま押しつぶされるのではないかと、私は恐怖に怯えた。
そして気付いた。
私ではない何者かの息遣いが、耳元で聞こえていることに。
それは、私の息遣いよりも、ややゆったりとした間隔で呼吸をしていた。
すぅ…すぅ…と、まるで寝ているかのような息遣いだった。
姿は見えないが、なぜか私は、それが「男の人」だと分かった。
ゆっくりと吐き出す息が、私の耳に直接当たっている。
前述したように、私は、頭まですっぽりと布団を被って寝る子だった。
私の上にいるなにかは、私を掛布団ごと羽交い絞めにしているので、布団の感触は、頭部から足元まで、体全体で感じることができる。
つまり、布団の中に、私以外の人間が入る隙間などないのだ。
それなのに、私を羽交い絞めにするなにかとは違う別のモノが、布団内部にいることになる。
そのことに気付いたと同時に、私の意識はなくなった。
そのまま朝を迎え、結局私は遅刻した。
後日、あれは金縛りだったんじゃないかと気づき、金縛りは解明されている現象なのでホッとしたが、では、あの息遣いはなんだったのか。
その答えは未だ出ていない。
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